核医学治療とは
核医学治療とは、放射性同位元素(ラジオアイソトープ)を特定の疾患部やがん病巣に集中させ、その周りだけに放射線の影響を及ぼして細胞を死滅させる治療方法です。内用療法、内照射療法、アイソトープ治療などとも呼ばれます。
通常、飛程(放射線が届く距離)の短いβ(ベータ)線を放出する放射性同位元素が用いられ、131I(ヨード)、89Sr(ストロンチウム)、90Y(イットリウム)を用いた3種類の薬剤が現在保険適用として認められています。
これら3つのうち最も飛程が長い90Yでも、β線の体内での飛程は最大11mmです。周囲正常組織に与える影響を最小限にして病巣に集中的に放射線をあてる、理想的な治療法と言えます。
1.ヨード治療
甲状腺機能亢進症や甲状腺がんは、131Iカプセルを内服することによって治療を行います。
甲状腺機能亢進症:内科的治療や外科的治療などで効果が得られない方でも治療の対象となります。β線を出すヨード(131I)を内服し、甲状腺の中から放射線を照射し機能を抑制する治療です。数個のカプセルを飲むだけで完了し、効果が高い上に体への負担も少ない治療です。
甲状腺がんと比べて治療に用いる放射線量が少ないため、外来治療が可能です。
甲状腺がん:ヨードを取り込む性質を保持している乳頭がんまたは濾胞がんの患者様が対象となります。がん細胞の中から放射線を照射しがん細胞を死滅させます。主に手術後の取り残しや再発、リンパ節や肺への転移のある方などが治療の対象です。手術では取り除けない微小ながん細胞にも治療効果が得られるため、手術後にヨード治療を追加する事で、その後の死亡率、再発率が低くなると言われています。
131Iはβ線の他に、飛程の長いγ(ガンマ)線も放出します。患者様の周囲の人にも放射線の影響が及ぶ可能性がありますので、放射線を遮る構造をもった特殊な治療室が必要です。
我が国ではヨード治療の必要な患者様の数に対して、治療室を設置している病院の数が圧倒的に不足しているのが現状です。当院では国内最大級の病床数を誇っていますが、それでも現在の入院予約は約3か月先までいっぱいの状態です。
図:放射線治療室(アイソトープ治療センター) |
図:ヨード治療奏功例
頚部リンパ節(矢頭印)および両肺の131Iの集積は、ヨード治療の回数を重ねるごとに減少あるいは消失している。CTでも肺結節(矢印)の縮小あるいは消失が認められる。
2. ストロンチウム(メタストロン)治療
ストロンチウム治療は、がんの骨転移による痛みをやわらげる事を目的とした治療です。(骨転移そのものの治療を目的としているわけではありません)。麻薬での疼痛コントロールが難しい方も治療の対象となります。
β線を出すストロンチウム(89Sr)は、骨の成分であるカルシウムと同じ仕組みで骨に運ばれ、特に骨転移の部分に長くとどまります。骨転移巣の中から放射線を照射して痛みをやわらげます。治療は89Srを静脈注射するだけです。静脈注射された89Srは体全体に分布しますので、全身に多数の骨転移巣がある患者様においてより効果を発揮します。
89Srはほぼβ線のみを放出するため、周りの人への放射線の影響がほとんどありません。したがって、外来での治療が可能で入院の必要はありません。
通常、注射の1~2週間後から効果が現れ、7割を越える方で疼痛緩和が得られます。また、1回の注射で除痛効果は3~6か月持続し、反復投与も可能です。
3. イットリウム(ゼヴァリン)治療
悪性リンパ腫の治療には、放射線療法、化学療法、免疫療法、造血幹細胞移植等がありますが、これらに加えて近年実用化されたのが放射免疫療法(ラジオアイソトープ標識抗体療法)です。 腫瘍細胞上の特異抗原を認識する抗体に放射性同位元素を結合させて、腫瘍細胞に放射線を照射する方法です。
ゼヴァリン治療は、B細胞リンパ腫細胞上にあるCD20というタンパクを認識する抗体に、β線を放出するイットリウム(90Y)を結合させ(イットリウム(Y-90)標識ゼヴァリン)、リンパ腫細胞に放射線を集中的に照射して死滅させる治療法です。
ゼヴァリン治療の対象は、CD20陽性の再発または難治性の低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫やマントル細胞リンパ腫の患者様です。
この治療では、まず診断用薬剤であるインジウム(111In)標識ゼヴァリンを静脈注射し、シンチグラフィによってゼヴァリンの体内分布を確認して治療の適格性を判断します。適格性が確認された後に、イットリウム(Y-90)標識ゼヴァリンを注射して治療を行います。
国内の臨床試験では、化学療法等による治療で有効性がなかった方の約80%に高い効果が認められ、約60%で完全寛解が得られたと報告されています。
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